
ヴィジュアル系(V系)シーンにおいて、ギターという楽器の役割は劇的な変貌を遂げた。
かつてのただ歪ませて鳴らす時代は終わり、現在はFractal Audio(フラクタル オーディオ)のAxe-Fx(アックス-エフエックス)、Kemper(ケンパー)、Line 6(ライン シックス)のHelix(ヘリックス)といったハイエンドなデジタルプロセッサーの普及で、サウンドの解像度と迫力は飛躍的に向上している。
その一方で、真空管アンプやアナログエフェクターといった昔ながらの機材を鳴らし切り、生の音圧と有機的な響きを追求するスタイルも根強く支持されている。
ライブハウスの空気を支配する、緻密かつ暴力的な最新のギターサウンドは、もはやジャンルの枠を超えた芸術だ。
伝統的な手法と最新のテクノロジー、そのどちらを選択し、どう自らの血肉とするか。その音作りの美学こそが、現代V系ギターの醍醐味と言える。
本記事では、2016年以降に結成され、現在進行形でシーンを牽引する4バンドを厳選。
その楽曲に秘められた超絶技巧とアンサンブルの構築美を徹底的に解説する。
ヴィジュアル系ギターを知るための必須キーワード
楽曲紹介に入る前に、V系ギターを語る上で欠かせないテクニックや機材について解説する。
これらを知ることで、楽曲の凄みがより鮮明に見えてくるはずだ。
リフ(Riff)「耳に残るキャッチフレーズ」
楽曲の「顔」となる、繰り返される短いフレーズのことだ。
V系においては、イントロで観客のボルテージを一気に引き上げる重厚なリフや、サビ裏で歌を支える印象的なリフが楽曲の成否を分ける。
タッピング(Tapping)「両手で奏でる、キーボードのような煌めき」
ピックを持つ右手も指板に打ち付け、ピアノのように両手で音を鳴らす奏法だ。
通常のピッキングでは不可能な音飛びや、流麗で煌びやかなフレーズを奏でる際に多用される。
現代V系では、未来的・デジタルな質感を出すために使われることも多い。
ワウペダル(Wah-wah pedal)「人ボイスのように、音をうねらせるペダル」
足元のペダルを踏み込むことで、音の周波数を変化させ「ワウワウ」と喋っているような効果を与えるエフェクターだ。
感情を揺さぶるエモーショナルなソロや、ファンキーなカッティングに彩りを与える。
ピッキングハーモニクス(Picking Harmonics)「攻撃的な、鋭い金属音」
ピックを当てる瞬間に親指を弦に軽く触れさせ、「ピー」「ギューン」という高い倍音を鳴らす技法だ。
激しいリフの合間に差し込むことで、攻撃的かつ不気味なアクセントを加えることができる。
エフェクター(Effector)「音の表情を変えるフィルター」
ギターの音に特殊な効果を与える装置だ。
元の音を激しく歪ませたり、宇宙のような広がりを持たせたり、残響を加えたりすることで、一気に非日常的な世界観を作り出す。
ピッキング(Picking)「ピックで弦を弾く動作そのもの」
優しく撫でるように弾けば繊細に、叩きつけるように弾けば攻撃的に。
ギタリストの喜怒哀楽が最もダイレクトに現れる場所だ。
ダウンチューニング(Down Tuning)「弦の張りを緩め、通常よりも音程を低く設定すること」
音が低くなるほど「重み」や「不気味さ」が増し、V系特有の地を這うような重低音サウンドが生まれる。
ギターが「刺さる」若手注目ヴィジュアル系バンド
ここからは、現在のV系シーンにおいて特にギタープレイが際立っている重要バンドを紹介する。
いずれも始動から10年以内の若手で、独自のギター哲学を持つバンドばかりだ。
それぞれのバンドから、ギタリストとして「これだけは聴いておくべき」という2曲を厳選し、その核心に迫る。
キズ|破壊的衝動と緻密な計算の融合
2017年の始動以来、異彩を放ち続けているのが「キズ」だ。
彼らの音楽性は、痛烈なメッセージ性と、それを増幅させるアグレッシブなアンサンブルに集約される。
ギタリスト・reikiが放つサウンドは、破壊的な衝動と、聴き手を惹きつける緻密なロジックが同居している。
ヒューマンエラー
イントロの鋭いリフから一気に楽曲の世界観へ引きずり込まれる。
この曲の聴き所は、1番と2番のBメロで見せる「対比」の構造だ。
1番のBメロではタイトなミュートでメロディを刻み、焦燥感を演出。
対して2番のBメロでは一転してクリーントーンによる麗しい旋律を奏でる。
この使い分けが、サビのシンプルなコードワークをより際立たせ、ヴォーカル・来夢の歌声を最大限に活かしつつ、楽曲に圧倒的な疾走感と切なさを加えている。
R/E/D
終始、他の楽器隊との強固なグルーヴが心地よい一曲だ。
エモーショナルなリフを主体としつつ、サビ前のラップ調のセクションでは楽曲に独特のタメとリズムの揺らぎを与える。
低いチューニングを活かした重厚なリフが主体だが、単なる重さだけではない。
reikiのピッキングのキレが凄まじいため、一音一音が潰れずに主張してくる。
サビでの開放感あるコードワークへの転換は、ギタリストなら思わず唸る鮮やかさだ。
零[Hz]|デジタルと肉体が共鳴するミクスチャーロック
2018年3月20日結成。RioとLeoの二人が織りなすツインギターが武器だ。
「東京ミクスチャーロック」をコンセプトに掲げ、多様な音をミックスさせたサウンドにVocal・ROYのセンセーショナルな歌声を乗せる。
デジタルな打ち込みと、生のギターサウンドが高次元で融合しているのが特徴だ。
リアン
エレクトロニックな打ち込みから幕を開けるが、バンドインした瞬間の重低音リフのノリに圧倒される。
特筆すべきはAメロにおけるRioとLeoのギターの掛け合いだ。
左右のチャンネルから繰り出されるフレーズが絶妙に絡み合い、計算された空間を作り上げている。
サビでは一転して爽やかな広がりを見せる「横ノリ」のグルーヴが展開され、ミクスチャーロックらしい多角的な魅力を放つ。
Aim for HEAVEN
零[Hz]のテクニカルな側面を象徴する楽曲だ。
随所に盛り込まれたタッピング奏法が、楽曲にデジタルな煌めきを与える。
単なる速弾きの見せ場ではなく、タッピングによる広音域の跳躍が、楽曲の持つ未来的・ポジティブな世界観を補強している。
精密機械のような正確さと、エモーショナルなメロディセンスが融合した楽曲である。
XANVALA|絢爛豪華なツインリードの極致
2020年1月結成。
「乱れることは美しい」をコンセプトに、キャッチーなメロディと鋭利なサウンドを武器とする。
ストーリー性のある歌詞をクリアな巽の歌声に乗せ、全国ワンマンツアーを中心にシーンを駆け上がっている。
Yuhmaと宗馬によるギターワークは、王道のV系美学を現代の技術でアップデートしたものだ。
リード・アクトレス
イントロから耳を掴むノリの良いリフが印象的だが、最大の見所はサビ後の展開にある。
サビのカッティングからなだれ込むギターソロは、まるでシンセギターのような独特の音色を響かせる。
伝統的なV系スタイルを継承しつつも、新しい音響的アプローチを恐れない彼らのセンスが、このソロパートに凝縮されている。
左耳の悪魔
激しいリフが支配するバンドサウンドから、一転してメロディアスなサビへと昇華する構成が見事だ。
Aメロ前の低音セクションで差し込まれるピッキングハーモニクスは、楽曲に鋭いアクセントと殺気を与える。
ソロパートでは、あえてツインギターのハモリに逃げず、宗馬のカッティングを大胆に盛り込んだソロを展開。
アンサンブルの隙間を縫うようなテクニカルなプレイは、ギタリスト必聴だ。
BLAZE|新世代が放つ「救い難い者達」への聖歌
2025年8月に始動した4人組。コンセプトは「救い難い者達へ」。
NEROとクルルのツインギターが構築する音像は、ダークかつ圧倒的な質量を誇る。
ダウンチューニングを駆使して生み出される重厚なサウンドは、新世代の旗手として揺るぎない覚悟をその音に刻み込んでいる。
廻春
3拍子のリズムを取り入れた、メロディアスなミディアムバラード。
特筆すべきは「静と動」の極端なギャップだ。
Aメロではストリングスと絡み合う、息を呑むほどに美しいアルペジオを展開。
そこからサビで一気に解き放たれる重厚な歪みへの対比は、エフェクターの踏み替えやピッキングの強弱による表現力の賜物だ。
バラードという形式の中でギターが持つ「歌心」を再認識させる。
MAYDAY
BLAZEの真骨頂であるヘヴィなリフが炸裂する。
ダウンチューニングによる地を這うような重低音と、タイトな刻みがリズム隊と完全に同期し、巨大な「音の壁」を形成する。
後半に控えるクルルのギターソロは、ワウペダルとタッピング奏法を駆使したテクニカルなもので、現代的なヘヴィネスの中にクラシカルなギターヒーロー像を想起させる。

まとめ|ギターの進化がヴィジュアル系の未来を創る
今回紹介した4バンドに共通しているのは、自らの表現の拡張のために最適な音を追求し続けている点だ。
最新のデジタル技術を駆使する者もいれば、伝統的なアナログ機材で生の音圧を追求する者もいる。
その選択の先に、キズの緻密な構成、零[Hz]のデジタルとの融合、XANVALAの絢爛なサウンド、BLAZEの圧倒的な重圧が生まれている。
しかし、その卓越したギタープレイが真に輝くのは、強固なリズム隊やヴォーカルと火花を散らすアンサンブルがあってこそだ。
互いの音を信頼し、高め合うことで生まれる唯一無二のグルーヴは、まさにバンドという生き物の鼓動そのものである。
次に彼らのライブを観る際は、ギタリストの指先はもちろん、バンド全体が混ざり合った音の粒子に全神経を集中させてほしい。
個の技術と集団の調和が解け合うその場所には、言葉を超えた感動が必ず存在するはずだ。

