シェルミィ「双極 -躁-」北堀江vijon公演ライブレポート

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2025年5月10日、大阪・北堀江vijon。

シェルミィによる二日連続コンセプト型公演「双極」の初日、“躁”編が開催された。

定番のSE「負け犬の忠誠」が流れはじめるかと思いきや、今夜はどこか様子が違う。

随所で鳴り響く犬の遠吠えが、静かに、不穏に、観客の精神を撫でていく。

じわじわと気分が高揚し、どこか浮ついた感覚が広がる。

目次

ステージに現れた4人の躁的シルエット

この日の衣装は、メンバーそれぞれが「躁」の衝動と個性を解釈した装いだった。

はモノトーンを基調としたストリートコーデ。

ジャケットの尖ったディテールが、落ち着きと刺激を絶妙に共存させている。

凌央はブラック×パープルのジャージ上下。

赤のラインがポップなアクセントになっており、ツインテールが高い位置で揺れるたび、毒々しくも愛らしい。首元にはいちごのネックレスが光り、可愛さと狂気が交差する。

友我は白のボウタイブラウスにピンクのツイードジャケット、足元はワイドデニム。

もはや“韓国のオシャレ女子”と見まごうばかりのファッションで、華やかさのなかにしっかりとギターの鋭さを秘めていた。

は視覚的にも圧倒的な存在感。カラフルなエクステを編み込んだセミロング、ホワイトデニムのジャケットには大量のワッペン、そしてパンツにはアスキーアートが全体にプリントされたルーズなスウェット

サイバー感とポップさを共存させた装いは、2000年代初頭のインターネット文化を想起させるフライヤーデザインともリンクしていた。

浮かんでいるような気分、でもどこか疲れている──そんな躁の情緒を、4人はファッションで明確に提示していた。

疾走する“躁”のセットリスト

1曲目「心理的瑕疵少女」から会場は一気に沸騰。

4人の高いテンションに、オーディエンスも即座に反応する。

躁というテーマに対して真正面から飛び込むような、爽快で混乱に満ちたスタートだった。

続く「フラッシュバック炉利ポップ」では、メンバーが飴玉(この日はミルキー)を客席に投げるおなじみの演出。

脳が甘さと騒音で痺れるような、シェルミィならではの“楽しさと毒”の融合が会場を満たしていく。

中盤の「ヒステリック姫カット」では、揺れるサウンドが交錯し、フロア全体がトランス状態のような陶酔感に包まれた。

MC|“躁”という不安定な高揚を語る時間

MCでは、豹がこう語った。

「双極・躁ということでね。浮かんでるけど、疲れるような感覚を味わって帰ってください。」


ただ“楽しい”だけでは終わらせない。浮かびながらも、不安と疲労を感じさせる。それがこの日のライブの本質だった。

メンバー同士の掛け合いも冴え渡る。

豹「爻くん躁じゃないやん(笑)」


爻「俺的には躁やねんけどなー(笑)」


凌央「躁じゃなくて、爻やん!」


爻「うしろ向いたら真顔になってるかも(笑)」

軽口の応酬に、会場も思わず笑い声を上げる。

冗談を言い合いながらちょっと照れくさそうに笑う4人の姿に、“躁”というテーマすらも、なんだか愛しく思えてくる。

「エキゾチックショートケーキ」|悪魔に魂を売る甘さと絶望

後半に披露された「エキゾチックショートケーキ」は、高揚感に溺れながら悪魔に魂を売るような、そんな感覚を抱かせる一曲だった。

派手なサウンド、飛び跳ねるビート。

なのに、どこか虚ろな眼差しのまま笑って歌う豹の姿が、どうしようもなく切なかった。

躁とは、ただハイなだけではない。

浮かび切った先には、堕ちる未来が待っている。この曲は、そのことを見事に伝えていた。

アンコール|“お腹いっぱいで苦しい”その感覚を共有して

アンコールでは、豹がこんな話をした。

「休みの日なんもないと、つい食べちゃってさ。お腹いっぱいで苦しいんよ。でも、それって満たされてないからやと思うし、みんなもそういうことあると思う。」

会場に静かな共感が広がる。

躁=満たされない高揚というテーマが、静かに整理されていく時間だった。

そしてラストは「平成メンヘラセオリー」。

軽快なリズムと毒のある歌詞が入り混じる。

”しんどいのになんか楽しい”というこの夜の感情すべてを凝縮した一曲だった。

最後に|“躁”の夜を終えて、明日“鬱”に会う

この夜のシェルミィは、躁という言葉の奥にある痛みや疲れ、寂しさまでを引き受けたライブだった。

上がって、笑って、でもどこか落ち着かない。

だからこそ、観終わったあとに残ったのは、ただの“楽しかった”ではない。

“あれはなんだったんだろう”と考えさせるような余韻だった。

そして明日は「鬱」。

今日とは真逆のテンション、静かに沈み込むようなライブが待っている。

シェルミィが描く“二極”のもう一方を、私たちは明日、確かめに行く。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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