シェルミィ「双極 -鬱-」福島2ndLINE公演ライブレポート

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2025年5月11日、大阪・福島2ndLINE。

シェルミィによる二日連続コンセプト公演「双極」の二日目、“鬱”編が開催された。

前夜の“躁”編(北堀江vijon)終了後に豹(Vo)は「明日は私たちとこの高いところから手を繋いで落ちてください」と語り、負け犬に次の日訪れるであろう“転落”への覚悟を促していた。

無骨な箱である福島2ndLINEのコンクリート壁に囲まれた空間は、余計な装飾を排した分だけ、生々しい感情を浮き彫りにする。

この荒涼とした会場の空気感と相まって、これから始まる“鬱”の物語への没入感は開演前から静かに高まっていた。

目次

ステージに現れた4人の鬱的シルエット

ステージに登場したメンバー4人の衣装は、前夜からガラリと一変していた。

それぞれが「鬱」というテーマを自分なりに解釈し、個性を滲ませつつも全体として沈んだトーンで統一されている。

爻(Dr)は暗色を基調としたマーブル模様のセットアップ。気負いのなさと無関心さの狭間を歩くようなスタイリングが、躁とは違う“脱力”を象徴していた。

凌央(Ba)は前夜のポップな装いを脱ぎ捨て、パンク調にアレンジされた黒色のジャケットに身を包む。

高い位置で揺れていたツインテールは下ろされ、首元のいちごも姿を消し、その代わりに無機質なシルバーのネックレスと灰色のチョーカーが孤独感を漂わせる。

友我(Gt)は白ブラウスとピンクのツイードジャケットから一転、ギラつくスパンコールが光る肩幅のあるジャケットに、レザー調のフレアパンツ。

小さな顔がより際立ち、静かで艶やかな存在感を放っていた。

豹(Vo)は豹は、誰もが予想したであろう“黒ずくめ”を完全に裏切った。選んだのは、ボーダーのロングスリーブポロシャツ。両腕には自傷を想起させる包帯、右目には眼帯。

浮かんでいるような狂気を纏った昨夜とは対照的に、沈み込むような絶望を4人はファッションで明確に提示してみせた。

落下するような開幕

1曲目は「即ち、」。

ノリのいいリズミカルなAメロで、負け犬たちは片手を軽く掲げながらリズムを取る。

その様子はまるでまだ前日の「躁」の余韻を引きずっているかのよう。

しかし、重厚な音像が空間を押し潰すように響き始めるBメロで空気は変わっていく。

躁から鬱へ。

「即ち、」グラデーションで沈んでいくような導入として機能していた。

「疼」|夢と現実の狭間で揺れる絶望

▶︎0:22〜「疼」

前夜に「何年ぶり?って曲やるから」と予告されていた「」。

今日の“鬱”における核心のひとつだった。

演奏が始まった瞬間、空気は沈み、悪い夢から覚められないまま同じ景色を繰り返すような絶望感が、会場をゆっくりと支配していく。

静けさとスローなヘドバンの繰り返しが、夢とうつつの狭間を揺れるような感覚を生んでいた。

MCは最小限|語らないことで伝える“鬱”

この日の本編MCは最小限に留められていた。

そんな中、豹がため息にも似た声で言葉を発する。

「昨日は楽しくて疲れました。今日は今日で上がり切らないです(笑)それもシェルミィらしいかな。」

その言葉もどこか笑いながら、しかし目線は落ち着いていた。

「メイデイメイデイ」|夢の代償の空虚に、涙が溢れる

中盤、セットリストの緩急はさらに巧みに観客の感情を揺さぶっていく。

披露された「メイデイメイデイ」は、この日のセット中唯一のバラードナンバーだ。

歌詞の一節一節が胸に迫り、フロアは水を打ったようにシーンと静まり返る。

「大好きな音楽を聴こうか、あの時みたいに救ってくれよ」

このフレーズが響いたとき、フロアには明らかに涙ぐんでいる観客が複数人いた。

音が途切れた瞬間、客席にはしばし呆然とした空気が漂っていた。

本編ラスト「平成32年へ。」|今もなお終わらない平成への思い

本編ラストを飾ったのは「平成32年へ。」は、2020年リリースのコンセプトアルバム表題曲でもある。

叶わぬ夢と満たされない日々に首を絞められるような歌詞世界の中で、豹の叫びにも似た歌唱が会場いっぱいに響き渡った。

“救いのない物語”は、これ以上ないという完成形で本編の幕を下ろした。

アンコール|静かにほどけた語りと、8歳最後の夜

再びステージに現れた4人は、ようやく少し笑顔を浮かべていた。

豹が、じっと観客を見渡して話し出す。

「今日もそれぞれの鬱が出てるなあ(衣装に)。爻くん夏祭り?(笑)」

それに対して、爻が恥ずかしそうに返す。

「僕なりに頑張りました」

豹がおもむろに片手で顔を覆い、厨二病ポーズを決めると、爻がすかさず、

「厨二病みたいやな(笑)でも似合ってるねんなー」

会場に笑いが起こる。

「どうやった、躁鬱?」

豹の問いに、凌央が一拍おいて返す。

「昨日も鬱やったわ。今日はもっと鬱(笑)」

笑いを取りながらも、言葉の奥にある重みをフロアはちゃんと受け取っていた。

豹が少し空気を変えるようにぽつりと付け加える。

「僕たちは、今日が最後の……8歳です。」

フロアに一瞬の“間”が生まれ、すぐに拍手とあたたかな笑いが湧く。

「シェルミィは、9周年を迎えます。」

その言葉は祝いの宣言というより、「続いてきたこと」そのものを噛み締めるような報告だった。

そして豹は、ゆっくりと言葉をつなぐ。

「この場で言うべきことじゃないんかもしれへんけど、
もし俺らが解散したり、死んだりしたら、みんなの生活変わったりするかもしれへんけど、でも変わらず生きていくんやろうなって。
俺らってそんなに影響与えてるわけじゃないよなって思ったりする。

けど、みんながこうして来てくれる。その行動が一番信じられるし、僕らを動かしてます。」

それは、言葉にしてしまうことで壊れてしまいそうな不安を越えて、いまここにいる負け犬へ投げかけた、ひとつの信頼の証だった。

アンコール前半「冷和、凍京」|信じることの裏返し

アンコールで演奏されたのは「冷和、凍京」。

普段はライブでそう頻繁に披露されることのないこの曲が、“鬱”の空気において浮かび上がるように差し込まれた。

「人間なんて信じない」
「人の所為にするのはやめたら?」

豹がそう歌いながら客席を見渡したとき、この言葉がただの歌詞ではなく、MCで語った“信じること”への葛藤とリンクしていたことに気づく。

抱える不信と、それでも信じたいという矛盾が、このタイミングの「冷和、凍京」に込められていた。

ラスト「平成メンヘラセオリー」|“陰”が“光”に反転する瞬間

ラストに演奏されたのは、「平成メンヘラセオリー」。

前夜と同じ選曲。だが、響き方はまったく違っていた。

昨日、“躁”の夜を締めくくったときは、あれだけ明るいセットリストのなかで、この曲がかすかに暗く、影のように感じられた。

ところが今日、“鬱”の沈み込んだセットリストのなかでは、同じ「平成メンヘラセオリー」がむしろ元気で、そして強く思えた。

一曲としての姿は変わらないのに、文脈と空気によって、曲の“重心”が変わってしまう。

それが、この二夜連続公演の醍醐味だった。

最後に、豹がはっきりとこう言った。

「一緒にこれからも戦っていきましょう」

その言葉が、“鬱”と共に生きている全員への肯定だった。

最後に|“救いなき鬱”が描いたもの、そして次の幕開けへ

こうして幕を閉じたシェルミィ「双極 -鬱-」公演は、文字通り救いのない物語として完結した。

しかし不思議と後味の悪さはなく、むしろ一篇のフィクションを読み終えたかのような充実感すら残している。

前日の“躁”公演が「浮かび切った先には、堕ちる未来が待っている」ことを予見していたように、この“鬱”公演はその未来=奈落をありのまま見せつけたと言えるだろう。

笑って盛り上がるライブでは決して得られない、何か得体の知れないものを突きつけられるような余韻

観客一人ひとりが胸に抱えたその感情こそ、本公演が提示したかったメッセージだったのではないだろうか。

報われない日々でも歌に乗せれば今日を乗り越えられるし、それを共にする仲間(負け犬)がいることで救われる部分も確かに存在したのだ。

完全な救済はなくとも、共有された絶望は物語として完成し、観客の中に深く刻まれた。それはバンドと観客が創り上げた一夜限りの芸術と言っても過言ではない。

そして今、観客はこの物語の続きを期待せずにはいられない。

救われないまま終わったからこそ、その先にどんな展開が待つのか――5月31日、東京・下北沢ReGにて開催される「少年蓮初披露始業式公演『真学期』」でシェルミィは最新衣装・新曲のお披露目を行うという。

“双極”という二部作を経て迎えるこの日、彼らは再び我々に何を見せてくれるのか。答えはまだ闇の中だ。

しかし、二夜連続公演を通じて浮き沈みの芸術を体現したシェルミィならば、きっと我々の予想を裏切る新章を用意しているに違いない。

救われなかった物語のその先に、一筋の光が差し込むのか――負け犬は重い余韻を胸に抱えながらも、新たな幕開けの日を心待ちにしている。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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