シェルミィ「真学期」下北沢ReG公演ライブレポート

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2025年5月31日、小雨の降る東京・下北沢にて、シェルミィ単独見世物公演「真学期」が開催された。

真学期

開場前の11時半。湿ったアスファルトの上を、静かに傘を揺らしながら下北沢ReGに向かう“負け犬”たち。

タイトルに“学期”と冠されたこの公演に呼応するように、制服風の衣装や学生風ファッションに身を包んだ負け犬の姿も多く、開場前からすでに“始業式”の空気が漂っていた。

目次

新衣装で現れた「新学期」のシルエット

シェルミィを象徴するSE「負け犬の忠誠」が流れ、一人ずつ姿を現したメンバーたち。

4人の新衣装は、学生服をモチーフにしつつ、それぞれが強烈な個性を放っていた。

Dr.は王冠をかぶり、右目がクリア、左目が黒のアシンメトリーなサングラス。

髭をたくわえた風貌は、校則違反を通り越して“君臨”に近い。

Ba.凌央は黒の犬耳風ヘアバンドに赤いおしゃぶりを咥えるという問題児スタイル。

可愛さと同時に、無邪気な暴力性を感じさせる奇妙な存在感を放っていた。

Gt.友我は白い肌に青い瞳、色素を薄く見せる淡いメイク。

まるで海外のドール、あるいは転校初日に浮いてしまった転校生のようでいて、立ち姿には異様な威厳がある。

そしてVo.は、濃いピンクの髪、目の周囲を無彩色で囲んだアイメイクを施している。

ステージ中央に立った瞬間に、見透かしてくるような鋭いその視線が観客を刺した。


「少年蓮」|僕から君へ、切なさと強さを同居させたメッセージ

1曲目は未リリースの新曲「少年蓮」。

豹がギターを抱えてセンターに立つ姿は、どこか緊張と覚悟を帯びていた。

ミドルテンポのシンプルなパンクチューンで、余計な装飾のないメロディが、むしろ言葉を引き立てる。

その歌詞は、「僕」から「君」へと語りかける視点で綴られる。

この“君”とは誰なのか。

それは、聴く人によってまったく異なる像を結ぶ。

ラブソング、過去の自分に宛てた手紙、あるいは、ずっとシェルミィとともに歩いてきた負け犬へのメッセージにも思える。

そしてもっと広く見れば、隣にいるメンバーに向けた「ありがとう」と「まだ行こう」の間にある想いなのかもしれない。

大人になったら死にたい」|いつもと一味違ったコール&レスポンス

続けて演奏されたのは、「大人になったら死にたい」。

豹のギターが鳴ると同時に、会場は再び緊張する。

豹が叫ぶ。

「大人になったら死にたい!」

観客は即座に

「死にたい!」

と応えるコール&レスポンス。

だが、今日はお約束が一つ崩れる。

メンバー全員が順にコールを行う中、マイクを向けられた凌央は、

口におしゃぶりを咥えたまま

「んー!んー!」

と返す。

それを見て、観客から笑いと愛しさが同時にこぼれた。


「自分を殺している」|00年代の影と、3拍子に引きずられる没入感

3曲目に披露された新曲「自分を殺している」は、00年代ヴィジュアル系の影を感じさせる、メロディアスな一曲

Aメロからサビにかけては、コード進行もメロディラインも比較的王道。

しかしそのわかりやすさが、逆に聴き手の記憶の深い部分を刺激してくる。

間奏に入ると、突如リズムが3拍子に切り替わる

メロディの端々に「病み」と「美」が同時に混ざり合う。

陰鬱でありながらも、胸の内に秘めた意志のようなものが感じられた。


MC|9歳の1日目

MCで豹が語る。

「今日はシェルミィが9歳になって1発目のライブ。10年生です!」

フロアから拍手が起こる。

2016年5月15日。

シェルミィが活動を始めた日から、9年という時間が過ぎていた。

この長い年月をシェルミィとして貫いた意味は、きっと誰よりも彼ら自身が痛感しているはずだ。

「ぼくらの残酷激情(グランギニョル)」をコンセプトに掲げ、感情を抉り、時に怒り、涙を流しながら、それでもステージに立ち続けてきた。

そして今日、9年目の最初の1ページを、またライブハウスという教室で開いた。

豹が続けて、軽く笑いながら言う。

「みんな、夜遅くまで起きてる人の方が多いと思うけど、こんな時間によう集まれたな!(笑)」

午前11時半開場という異例の時間帯。

生活リズムすら狂わせてでも、負け犬はこの公演に出席しに来ていた。

「放課後の凶室」「インスティンクト_リクエスト」

続く「放課後の凶室」で、会場の熱が一段上がる。

この曲は、言うまでもなく“学校”というテーマにおいてシェルミィが最も強く印象づけてきた代表曲のひとつ。

学生服というモチーフにこれほど合致した楽曲はない。

曲が終わると、豹が吐き捨てるように言う。

「そんな邪魔な制服なんて脱いじまえ!」

そのまま流れ込むように始まる「インスティンクト_リクエスト」。

ギターソロに差し掛かると、友我はジャケットの片方を肩からすべらせるようにはだけさせ、そのまま妖艶な立ち姿で音を鳴らし続けた。


「陰口」|激しさの中、幕を閉じる公演

最後に披露されたのは、3つ目の新曲「陰口」。

豹は演奏前に言う。

「好きにやってくれていいから」

イントロから既に、リズムが身体に直結する設計になっている。

初見にも関わらず、観客の身体が迷わず動く。

タオルも扇子も不要。全身が条件反射のようにヘドバンへ突入する。

新曲であることを一瞬で忘れさせるほど、すでに“暴れ曲”として完成されていた。

最後に|迷い子の理論、呼び覚まされる原点

ライブ終盤、豹が静かに口にする。

「泥ツアーのファイナルが決まりました。12月27日、大阪・梅田Shangri-La。公演名は──『迷い子の理論』です」

フロアが息を呑む。

シェルミィという物語が始まるよりも前、豹と友我がまだ「ゼラ」というセッションバンドとして活動していた頃から、ずっと開演前BGMとして流されてきた曲の名が「迷い子のリボン」。

この楽曲は、アニメ『少女椿』のエンディングテーマとしても知られている。

そして、今作の新譜のタイトルは「少年蓮」。

名は違えど、どこか対になるような響き。

蓮(はす)という花は、泥の中からしか咲けない。

その“泥”をテーマにした今回のツアー「泥ツアー」の終着点が、「迷い子のリボン」と重なる事実に、負け犬たちはざわついた

2025年12月27日、「迷い子の理論」。

その日、シェルミィはどこへ行き、何を見せてくれるのだろう。

今はまだ、その答えは見えない。

だが、その一歩目をこの日、確かに私たちは一緒に踏み出した。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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