シェルミィ「泥」ツアー 愛知 HOLIDAY NEXT NAGOYA公演 ライブレポート

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2025年7月6日。

うだるような高温と、肌にまとわりつく湿気。

HOLIDAY NEXT NAGOYAに向かう途中、ただ息をするだけでも汗が滲んでくるような陽気のなか、それでも“負け犬”たちは、吸い寄せられるように集まっていた。

目次

開演SE「全校集壊」|クールで個性あふれる装い

開場が暗転し、SE「全校集壊」のチャイムが鳴り響く中、ひとりずつステージに現れるメンバーたち。

最初に姿を見せたのは、長い髪を編み込んだ爻。

エキゾチックでありながらどこか神聖な気配を纏い、その存在感は静かに、しかし強く際立っていた。

次に登場したのは凌央。

淡いパープルのインナーに身を包み、オッドアイの視線が鋭く光る。

友我は、透け感のある黒レースのインナーに、ハードなチョーカーを合わせた装い。

中性的な美しさの中に、凛とした緊張感が漂う。

最後に現れた豹は、髪をかきあげたオールバックに、無彩色のメイク。

目元を黒く囲い、唇には色がない。

表情は冷たく、だがその奥に何かが滲む。


1曲目「放課後の凶室」→2曲目「狐の嫁入り」→3曲目「今日も後悔の血が垂れる」

今ツアー定番の「放課後の凶室」からスタート。

チャイム音を掻き消すかの如くモッシュが巻き起こり、初っ端からフロアは爆発する。

曲が終わるや否や、豹はドラムのビートに合わせて右手をキツネの形にし、「コン!」と一声。

負け犬もそれに応じ「コン!」と右手で作ったキツネを掲げる。

その合図をきっかけに、2曲目「狐の嫁入り」へ突入。

イントロから拳ヘドバンが始まり、動きはさらに激しさを増す。

一方で、Bメロでは手を繋ぎながらの横揺れステップが広がり、和ホラー的な世界観と集団性の美しさが同居する不思議な光景が現れる。

豹が不意に呟くように放つ一言。

「今日もこの左腕から後悔の血が流れて止まらないんだ」

その言葉を受け始まったのは3曲目「今日も後悔の血が垂れる」。

低く抑えたAメロから、じわじわとテンションを上げていく構成。

Bメロで豹の声が熱を帯び、楽器陣がうねりを増していく。

一音ごとに積み重ねられた後悔が、やがて爆発寸前の怒りへと変貌していく。

4曲目「悪い大人」→5曲目「自分を殺している」→MC

4曲目に披露されたのは、初期曲「悪い大人」。

近年のライブではあまり頻繁には聴くことができないややレアな選曲に、フロアからは小さく歓声が上がる。

続く5曲目は、「自分を殺している」。

観客の誰もが、その言葉の重さに引き込まれるように耳を傾けていた。

ここで最初のMC。

豹がマイクを握り、強く語る。

「他のバンドがどうとか、ヴィジュアル系はこうあるべきとか、そんなん俺らは関係ないから。」

その言葉に、後方のギャ男からも大きな歓声が上がる。

6曲目「黒猫」→7曲目「依り糸」→8曲目「ジンテーゼナイフ」

6曲目に披露されたのは「黒猫」。

ステージ上、スポットライトに照らされる豹の姿が、まさに“孤独な黒猫”そのもの。

一匹だけ取り残されたような静けさと哀しみを帯びながら、曲は淡々と、だが確実に観客の胸に降り積もっていく。

サウンドが加速するタイミングで、凌央が左足で空を切るように放ったキックは、それまで抑え込まれていた感情が解き放たれる合図のようだった。

続く7曲目「依り糸」では、空間のトーンがさらに変化する。

感情の起伏をなぞるようなメロディに、鬼気迫るような豹の歌声が乗る。

楽器隊の演奏も一音ごとに熱を帯び、サビではステージ上から発せられる色とりどりのライトが、フロアへと伸びる。

それはまるで、観客一人ひとりへ“糸”を結ぼうとするかのようだった。

そして豹がギターを手に取ると、8曲目「ジンテーゼナイフ」へ。

感情の糸を手繰ってきた流れから一転、今度は“刃”を突き立てるような展開。

糸もナイフも、この日はすべてが“武器”のように鋭く感じられた。

9曲目「少年蓮」→MC

9曲目に演奏されたのは、「少年蓮」。

この曲ではサビの一節――

「僕が愛した全ての物が輝けるように」

を、観客も声に出して歌う。

大きな声ではない。けれど確かに、あちこちから言葉が重なり合っていた。

そして2回目のMCへ。

豹は、ぽつりとこう切り出す。

「僕はね、汗かくのが大嫌いなんですよ。

1〜2時間かけてヘアセットしても全部なくなっちゃうし、SNSの僕しか見てない人は、こんな姿知らないと思う。

りょちゃんの動きがどうとか、がーゆのキャラとか、爻くんがどうとかもきっと知らない。
でもここにいるみんなは、知ってくれてる」

ライブでしか見せない姿がある。

汗をかき、喉を枯らし、すべてを曝け出して目の前の観客にぶつけている。

その現場を知らずに語るな――という静かな怒りと、だからこそ、まだここに来たことのない人にも“本当の自分たち”を見に来てほしいという願いが感じられた。

10曲目「陰口」→11曲目「エキゾチックショートケーキ」→12曲目「白百合呼吸困難」

10曲目「陰口」。

「うるさいうるさいうるさい!」

豹の声には怒気が混ざり、

「本気でやれ!!」

という煽りには、いつになく鋭い棘があった。

そしてシームレスに11曲目「エキゾチックショートケーキ」へ。

テンポはほぼ変わらず、怒りの熱を保ったまま、差し出されるのは“汚い僕”。

「洗い落とせない汚い僕を

咀嚼して、味わって」


たとえ不味くても、汚れていても――それでも“僕を食べてほしい”という渇望が、甘く毒づくように響いた。

続く12曲目「白百合呼吸困難」では、扇子が舞い上がる。

リズムに合わせてフロア中に花が咲いたような一体感が広がり、呼吸困難になるほど踊る。

13曲目「君の首を絞めるうた」→14曲目「ファッションマイスリー」

13曲目「君の首を絞めるうた」では、フロアはヘドバンの嵐。

この曲は、シェルミィとしての初音源――2016年発売のシングル『平成メンヘラセオリー』のカップリング曲。

そして、さらにさかのぼる2015年、Shellmy時代に音源未発表のままライブで披露されていた曲でもある。

あの頃の衝動を、いまの“泥”の音で鳴らす――

“初心に立ち返る”という今回のツアーコンセプトに、これほど符合する選曲はなかった。

続いて14曲目「ファッションマイスリー」。

ステージから放たれる一音目と同時に、フロアは激しいヘドバンの渦へと飲み込まれる。

テンポの速さ、言葉の鋭さ、そして曲全体に宿る攻撃性。

そのすべてが観客の身体を直接揺さぶる。

アンコール|「パライゾ」→「インスティンク_トリクエスト」→「ヒューマンゲート」

アンコール1曲目は、リクエストによって選ばれた「パライゾ」。

曲名が呼ばれた瞬間、観客の多くが一斉に扇子を取り出した。

その様子を見た凌央が「すげえな」と笑う。

豹は苦笑しながらこう言う。

「今回のツアーさ、俺アンコールでやる曲を匂わせるのよく忘れるねんけど(笑)
でも、不思議と選曲がバッチリやねんな〜」

それに続けて、友我が笑いながら言葉を挟む。

「お前ら、レア曲やるときは『これリクエストしたいです!』って事前に言うてくれや!」

シェルミィと負け犬の関係性が自然と滲み出る、温かい一幕だった。

2曲目は「インスティンク_トリクエスト」。

豹が冒頭で叫ぶ。

「そんな邪魔な制服なんて脱いじまえ!」

言葉どおり、シャツを脱ごうとする仕草を見せ、観客の笑いを誘う。

だが曲が始まると、雰囲気は一転。

快楽と本能がぶつかり合うようなスピード感と解放感で、フロアが再び熱を帯びる。

そして、アンコールラストは「ヒューマンゲート」。

この曲が持つ“浄化”のようなニュアンスが、今日のセトリの闇を抱えたまま、一歩だけ前に進むような余韻を与えてくれた。

曲が終わったあと、豹は観客をまっすぐ見つめながら語る。

「弱気なことを言いますが……みんながいるから、自信を持ててます。
これからも、僕たちを生かしてください」

誰よりも強く振る舞ったその日、彼を立たせていたのは、負け犬たちが見てくれているという、揺るがない前提だったのかもしれない。

最後に|すべて曝け出し、泥の中で咲く

こうして、「泥」ツアー名古屋公演の幕は下ろされた。

美しさも弱さも、メイクの下に滲む汗すら含めてステージに乗せてくる彼らの姿は、等身大だった。

完璧ではないからこそ信じられるその姿に、負け犬たちもまた、自分のままで声をあげられたのではなかろうか。

シェルミィと負け犬が、お互いを曝け出し合う場所、見世物公演。

この“泥”の中に、あなたもそっと足を踏み入れてみてほしい。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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