シェルミィ「泥」ツアー アメ村 PANHEAD GROOVE公演 ライブレポート

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2025年6月29日、大阪・心斎橋。

前日に続くシェルミィの「泥」ツアー・大阪2Days。

この日は会場でのライブに先駆けて、昼間に『少年蓮』の発売記念アウトストアイベントが実施された。

1枚1,000円の『少年蓮』を含む、3,000円以上の音源購入者が参加できるイベント。

会場には早い時間から負け犬たちが列を作り、物販とイベント参加で賑わいを見せた。

目次

アウトストアイベント|新曲への想いについて

開場前に行われたアウトストアイベントには、上手から順に、爻、友我、豹、凌央の4人が登場。

客席に座った負け犬たちが事前に書いた質問をもとに、爻が司会進行を務めながら、にぎやかで笑いの絶えないトークが繰り広げられた。

最初の話題は、連日の猛暑について。

爻「最近暑いですが、なにか暑さ対策してますかー?」

友我「外に出ないことやねー。2週間くらい家におるよ」

客席からは思わず「えーっ!?」という驚きの声が上がる。

豹「おれ、蕎麦作ってる!」

爻「えっ、打ってんの!?(笑)」

豹「ちゃうちゃう、茹でてるだけ(笑)」

和やかな笑いに包まれたあと、トークは本題である『少年蓮』へ。

凌央は、

「まず歌詞の意味を理解して、シンプルな曲だからこそ、その世界観を壊さないように工夫した」

と語る。

実際、『少年蓮』はシェルミィの楽曲としては珍しく、王道のコード進行を使った直球勝負の1曲。

派手な仕掛けは少ないが、だからこそ彼らの“新たな挑戦”としての意味合いが強く感じられる。

そして、爻から紹介されたのは、豹による初のギターソロ挑戦

歓声が上がるなか、豹は照れくさそうに

「家ではできるねんけどなぁ」

と謙遜して笑ってみせた。

また「陰口」の話題では、爻が

「すごく速い曲やね!」

と苦笑交じりに語り、凌央も

「今までで一番速いと思う」

と認める。

イントロからコールアンドレスポンス、ヘドバン、ジャンプ、拳──

一瞬たりとも休めない展開は、演奏側にとっても観客にとっても体力勝負の1曲だ。

さらに「自分を殺している」についての話題も。

爻「『自分を殺している』についてはどうですかー?」

凌央「実は、あれ……かなり昔にデモができてた曲なんですよね」

豹「そう。今回、改めて歌詞を書き直して、当時とはけっこう変わった。でも、サビだけは全く同じなんよね」

長く温めてきた楽曲に、今の自分たちが新しい言葉を吹き込む。

そして、変わらなかったサビのフレーズが、むしろ曲の軸を強くする

その背景を知った上で聴く「じぶころ」は、またひとつ味わいを増すだろう。

イベントの終盤には、“青春パンク”をテーマに、おすすめの楽曲トークが展開された。

友我「cali≠gariの『青春狂騒曲』かな」

豹「おれ、『JESSICA』!(Dir en grey)」

凌央「やっぱりガゼットの『⭐︎BEST FRIEND⭐︎』かなぁ」

「わかるー!」という観客の声にメンバーも頷く。

最後には凌央の

「『OBSCURE』(Dir en grey)かな」

という発言に、豹が

「いやそれ青春やけど青春パンクじゃない(笑)」

とツッコミを入れ、客席も笑いに包まれた。

それぞれのルーツや好みが自然ににじむひとときとなったイベントは、穏やかな拍手の中で幕を閉じた。


開演SE「全校集壊」|鋭さと毒気に包まれた新たな装い

16時、開場。

ライブ本編は、SE「全校集壊」のチャイムが鳴り響く中で幕を開けた。

幕が上がると、そこにはすでに爻の姿が。

静かにフロアを見つめるように立ち、やがて他のメンバーたちも順に姿を現す。

その装いは、前日とはまた異なる空気を纏っていた。

凌央は髪を大きく立ち上げ、メイクもより濃く、毒々しい印象をまとっている。

その鋭い輪郭が、いつも以上に楽器の音を尖らせて響かせそうな緊張感を放っていた。

友我は、短髪にふんわりとウェーブをかけ、中性的な魅力を増幅。

その雰囲気は、まるでフランス人形のような繊細さとアンニュイな静けさを纏っていた。

豹は、棘のように髪を逆立て、×(バツ)印を頬に描いたメイクで登場。

鋭い目元と相まって、全体に“攻撃性”が際立つビジュアルだった。


1曲目「放課後の凶室」→2曲目「平成32年へ」→3曲目「ファッションマイスリー」

1曲目に選ばれたのは「放課後の凶室」。

おなじみのイントロSEからつながる形でヘドバン・モッシュが巻き起こり、序盤からフロアの温度が一気に跳ね上がる。

鋭く跳ねるギター、畳みかけるようなボーカル、暴れる身体。

2日目という緊張感をものともせず、負け犬たちの勢いが冒頭から解き放たれていく。

続く2曲目は、「平成32年へ」。

前曲の激しさから一転、深い余韻と郷愁をまとったミディアムテンポのナンバーだ。


失われたライブハウス、居場所、そして命を回想するように歌い上げられる。

「初めて認めてくれた先輩が自殺して泣いた夜も
居場所だったけど潰れてしまったライブハウスも」

という歌詞には、実体験のリアリティが滲む。

豹のギターボーカルが静かに、だが力強く、真っ直ぐに刺さってくる。

そして3曲目「ファッションマイスリー」では、空気が一気に反転。

初期の楽曲であり、疾走感と毒の強さが際立つ一曲。

フロアからも「待ってました」と言わんばかりに、小さな歓声があがる。

「自称メンヘラ、仮病癖

精神薬アピール笑っちゃうね!」

といった、揶揄とも自虐ともとれる歌詞が畳みかけるように投げられ、それを受け止めるように観客が全身で応える。


たった3曲で振れ幅の広い感情をぶつけてくるセットリストに、すでにフロアは飲み込まれていた。


4曲目「咀嚼」→5曲目「インスティンクト_リクエスト」

4曲目「咀嚼」は、観客の手拍子がリズムを引き寄せるように響き出す。

凌央のベースソロが空気を一変させ、続いて友我のギターソロが艶やかに絡む。

続けて演奏された5曲目「インスティンクト_リクエスト」で、そんな“毒の味”に酔いしれたまま、さらに深い快楽へ堕ちていく。

リズムと刺激に身を任せる刹那的な感覚、振り切れたエロスと暴力性が交錯するこの楽曲は、ちょうど「咀嚼」で膨張した空気を、違う形の快楽に変えていく。

無意識の本能(インスティンクト)に突き動かされるように、観客もまた、身体を預けて音に沈んでいった。


6曲目「哀しい日はいつも雨」→7曲目「おやすみ」

6曲目「哀しい日はいつも雨」へ。

バラードでありながら、音圧は凄まじい。

友我のギターはまるで声のように泣き、豹は汗を滴らせながら、魂を削るように歌い上げる。

そして、7曲目「おやすみ」。

沈んだ空気をそのまま引き継ぐように始まり、その陰鬱さと凄みに、観客は息を呑む。

ラストには豹のボーカルソロが加わり、静かに、そして確実にフロアの空気を変えていく。

「当たり前に過ぎてく時に

置いてかれて僕は一人」

というラインを吐き出すように歌いながら、豹はお立ち台に倒れ込む。

うずくまったまま、しばらく顔を上げない。

“溝へ捨てた「正常」でさえも「幸せ」だったのに”

という想いが、直接的な言葉以上に、豹の背中から突き刺さってくる。

「明日」を拒むギリギリの心情が、身体ごと表現される時間。

観客の誰もが声を出せず、ただその痛みに目を凝らしていた。


8曲目「自分を殺している」→9曲目「心理的瑕疵少女」

次に始まったのは8曲目「自分を殺している」。

「拳してくれてもいいからね」

という豹の前日の発言があったからか、あるいは、直前の鬼気迫るパフォーマンスへの応答だったのか。

観客のなかには、リズムに合わせて体を揺らしたり、拳を上げる姿もあった。

そして続く9曲目「心理的瑕疵少女」。

「私は負け犬事故物件!」

というコールアンドレスポンスに、観客は迷いなく声を返す。

リズミカルで可愛らしいサウンドながら、その中身は毒と自虐に満ちていた。


MC+10曲目「陰口」→11曲目「絶交」→12曲目「フラッシュバック炉利ポップ」

9曲目が終わると、豹がマイクを握って叫ぶ。

「大阪ほんまにアツい。まだまだいけますかー!」

その問いに、負け犬たちは全力の叫びで応え、フロアの熱気は最高潮に達する。

10曲目「陰口」。

「うるさいうるさいうるさい!」

というシャウトは、すでにこのツアーの名物ともいえる。

コールアンドレスポンスも、もはや“習慣”として身体に染みついているようだった。

続く11曲目「絶交」。

前曲の勢いをそのまま引き継ぎ、さらなる激しさが会場を襲う。

激しいヘドバンの嵐、ステージと観客のあいだで交わされる

「シェルミィ最高!」

のコールアンドレスポンス。

そして12曲目「フラッシュバック炉利ポップ」。

豹がひとこと、

「え!?また飴ない……?」

とおどけてフロアをざわつかせた次の瞬間。

「……あったわー!」

と安堵の笑いを誘いながら、ステージから飴が投げられる。

「飴玉を頂戴!」

の叫びに応えるように、メンバーたちが次々と飴をフロアへ投げ込む。

一瞬だけ子どもに戻ったような、楽しく明るい時間ながら、それでも曲の持つ毒気は健在。

甘さと棘が同居するこの楽曲は、ライブという非日常を象徴するかのようだった。


13曲目「僕の叫びはこの都会の吐瀉物に塗れてゴミとなった。」→14曲目「少年蓮」

13曲目に叩き込まれたのは、長いタイトルがそのまま鋭利なナイフのように突き刺さる楽曲、「僕の叫びはこの都会の吐瀉物に塗れてゴミとなった。」

爻が絶叫する。

「僕の叫びは!この大阪の!吐瀉物に塗れてゴミとなった!!!」

その叫びを合図に、「1・2・3・4!」のカウントで、一気に超高速リズムの曲が始まる。

タオルが宙を舞い、豹はメガホン型マイクで鋭く怒りを撃ち出す。

歌というより、言葉を吐き捨てるというべきか。

そして14曲目、ラストは「少年蓮」。

豹がギターソロに入るとき、ふと照れくさそうに他のメンバーへ目線を送り、小さく笑ってみせる。

だが、そこには確かな成長の余裕が生まれていた。

蓮の花が泥の中から咲くように、どれだけ毒を吐き捨てても、それでもまた前を向いて立ち上がる、そんな静かな意志が感じられた。


アンコール|絢奪り、優しい世界、平成メンヘラセオリー

アンコール1曲目は、リクエストによって選ばれた「絢奪り」。

今日のセットリスト全体の色――自嘲や喪失、陰鬱な情動が漂う構成に、この選曲は不思議なほどしっくりと馴染んでいた。

中でも印象的なのが、Bメロで突然現れる三拍子のパート

喪失感と虚無を旋律でなぞるようなその展開に、観客も自然と呼吸を揃え、深く沈んでいく。

続く2曲目「優しい世界」では、空気ががらりと変わる。

扇子が宙を舞い、身体を振り回す負け犬たちのエネルギーが解き放たれた。

そしてラストは、「平成メンヘラセオリー」。

もはや“シェルミィといえば”と呼ぶべき定番曲で、大阪2Daysは幕を閉じた。

ラスト、豹は力強くこう告げた。

「一緒に戦っていきましょう。着いてきてください」

その瞳はまっすぐに、シェルミィの未来を見据えていた。

最後に|“泥”の中からしか咲けない華

この2日間でシェルミィが描いたのは、ただ楽しいだけではない、“痛み”や“怒り”をも原動力にしたライブのあり方だった。

アンコール最後に放たれた

「一緒に戦っていきましょう」

という言葉。

それは単なる気合でもファンサでもなく、“絶望を知る者たち”同士の、静かな共犯の誓いのように、負け犬たちの心に響いた。

「泥」ツアーはまだ始まったばかり。

これから先の見世物公演で、彼らが果たしてどんなステージを見せてくれるのか。

その目で、必ず確かめてほしい。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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