シェルミィ「泥」ツアー 福山LIVE GYM MAYHEM公演ライブレポート

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2025年6月7日。

曇り空と湿った空気が、広島・福山の街にのしかかっていた。


JR福山駅から徒歩圏内にあるライブハウス・LIVE GYM MAHYEM(ライブジムメイヘム)に、開場前の16時が近づくにつれて“負け犬”たちが集まりはじめる。


その日0時には新EP「少年蓮」が配信開始されたばかり。

会場のあちこちで、早くもその感想が交わされていた。

目次

開演SE「全校集壊」|聴き覚えのあるチャイム

開場が暗転し、SEが流れる。

全校集壊」――聞き覚えのある学校のチャイムを基調に、不穏なノイズが重なる。

一人ずつ登場するメンバーたちは、「少年蓮」仕様の衣装に身を包んでいた。

1曲目「放課後の凶室」|続編としての開幕

初っ端から音が跳ねる「放課後の凶室」。

ヘドバンが巻き起こるフロア。

前公演「真学期」の流れをなぞるような幕開けだ。

2曲目「陰口」→3曲目「噂」|“言葉”の毒性と嫌悪感

2曲目に演奏されたのは、新曲「陰口」。

うるさいうるさいうるさい!」という豹のシャウトに呼応するコールアンドレスポンスに、負け犬は全力で応える。

疾走感のある爻のドラムが曲を引っ張り、フロアはヘドバンの嵐。

「はぁ、どうせ僕のことも陰で快楽快楽(ケラケラ)笑ってるんでしょ」

というラインに込められた不信感と苛立ちを、打ち砕こうとするかのような引っ張り(引っ張る拳)が痛快だ。

そして続く「噂」。

「陰口」がさらに歪曲され「ヒソヒソ」「ベタベタ」「グルグル」と拡がっていく。

セトリとしての配置があまりに見事だ。

MC(前半)|“語らない”という導入

最初のMCで豹が語る。

「泥ツアー初日、福山LIVE GYM MAYHEMということで。新曲も出ましたが、今はあまり多くは語らないつもりです。それぞれ解釈してくれたらと思ってます。」

EP「少年蓮」は3曲という、アルバムには満たない収録数。

しかしその分、ひとつひとつの曲が担う物語の重みが際立ってている。

6曲目「依り糸」|力強く想いをぶつけるバラード

6曲目「依り糸」では、豹が歌うと言うより叫ぶように感情を露わにし、バラードであるにも関わらず額から汗が滴り落ちる。

空気を裂くような一音に合わせて、凌央と友我の動きがぴたりと重なる。

切なくも力強く、「依存」の苦しみが胸に押し寄せた。

MC(中盤)|“泥”とは何か?

再びのMCで、豹がこう言う。

「泥食って、泥臭くやれ、なんてよく言いますけど。今回泥ツアーという名前でやってますが、そういう“泥に塗れても楽しかった”1年目の頃の気持ちを思い出してやりたいなって思ってます。」

華やかなだけではない、汗と葛藤にまみれた活動初期の感覚。

今改めて“原点の姿勢”に立ち返ろうとする強い意志がにじむ。

「ところで、ここ福山は友我くんの地元です。どう、地元は?」

豹からの問いかけに、友我は少し照れたように笑いながら応じる。

「ここ(ライブハウス)の上の階、鉄板焼き屋さんになっとるけぇ。次ここでやる時は、上で打ち上げもやろう!(笑)」

語尾には自然と広島弁がにじみ出ていて、その抜け感と親しみやすさに負け犬たちももふっと表情を緩める。

普段のライブではあまり見られない、地元ならではの素の姿が垣間見えた瞬間だった。

10曲目「自分を殺している」|胸を打つビートと、胸に閉じ込められた思い

10曲目「自分を殺している」。

鼓動のように脈打つBメロで

「悔しい時に突き刺すことさえできなくて」

というラインが重なった瞬間、自分ごとのように胸を締め付けられる。

音源ではシンセやハモリが織りなす彩りが印象的だが、この日のライブではバンドサウンドを前面に出したストレートな構成で、言葉の重さと切実さがより明瞭に立ち上がっていた。

本編ラスト「少年蓮」|咲き誇る一輪の決意

本編の締めくくりに選ばれたのは、「少年蓮」。

前回の「真学期」では幕開けを担ったこの楽曲だが、開放感のある曲調が終幕にもよく似合う。

“泥の中から咲く蓮”という象徴が、セットリスト全体を束ねるように立ち現れる。

「ここからまた始まる」そんな余韻を残して、ステージは一度、幕を下ろした。

アンコール|福山という「はじまりの地」にて

ふたたびステージに現れたのは、ツアーグッズのTシャツに身を包んだシェルミィの4人。

豹がマイクを口元に寄せ、「ここだけの話やけど──」と囁くかのような声で観客を引き込みながら、言葉を続ける。

「実は…シェルミィが、このLIVE GYM MAYHEM初のヴィジュアル系らしいよ!」

一瞬の静寂のあと、「ええーっ!?」という驚きと拍手がフロアに広がった。

そして、豹はくじの入った箱を掲げる。

「今回はこれ持ってきたよ〜」

くじを引いて当たった整理番号のファンが、追加で1曲リクエストできるという“選択型追加演目”。

この日は「脆弱性クロンダイク」が選ばれ、フロアは歓喜の拍手に包まれた。

「せっかくやし、初日やし……一人ずつ、喋ってく?」

豹からの提案に、まずメイクを握ったのは爻。

「これは、やらんとな!物販紹介します!」

テンポよく始めた彼は、Tシャツ・タオル・アクキーなどを紹介しつつ、

「扇子とミラーは……もうちょっと待っててください(笑)」

と柔らかく告げ、控えめながらもお茶目な笑顔を見せた。

豹は、

INSIDE PASS(インサイド・パス)Tシャツ、これね、スタッフパス風のデザインになってます」

と軽く補足したあと、ニヤリと笑ってひと言。

「つまりこれ着てたら、僕の心に“入り込める”ってことです!」

会場からは笑いと「入っていいの!?」というような歓声が返ってくる。

続いて、友我。

「さっき、豹くんが“泥ツアー”の話してて……それ聞いて、初めて意味知りました(笑)」

と暴露。

「聞かんと教えてくれんのよね。そういう女おるよな〜って(笑)」

肩をすくめるように言って、負け犬たちをクスッと笑わせた。

最後にマイクを取ったのは、凌央。

「こいつら(下手の凌央ギャ)最近、言うこと聞かんのよ」

とぼやきながらも、口元には笑みが浮かぶ。

「このツアー中に“調教”したるからな」

観客からは歓声と笑い声。

すると豹が、

「じゃあ、センター(豹ギャ)と交換する?俺が教育しよか?」

と返す。

凌央もすかさず、

「そしたら今度、センターが言うこと聞かんようになるんちゃう?(笑)」

と応じ、軽妙な掛け合いで会場を沸かせた。

そんな笑いの余韻の中、豹が改めて観客へ向き直る。

「ここにいるみんな、年齢とかバラバラやと思うけど……1年前、2年前、10年前、20年前とか、自分が元気やったころを少し思い出して、泥ツアーを感じてもらえたらなと思います。」

穏やかな声で語られるその言葉に、空気が少しだけ静かになり、フロアにはそれぞれの“あの頃”が、静かに浮かび上がっていた。

がむしゃらに走っていた日々。

声を出せなかった過去。

忘れていた感情。

誰かにとっての「泥」は、苦しかった日々そのものであり、また別の誰かにとっては、今ここで流す汗や涙そのものかもしれない。

そして豹は、少し声のトーンを上げてこう続けた。

「泥ツアーのファイナル『迷い子の理論』、12月27日──梅田Shangri-Laです。シェルミィにすごく似合う箱だと思ってます。ソールド目指してるんで、ぜひ着いてきてください」

まっすぐに響くその言葉は、負け犬の胸に灯をともすようだった。

アンコールラスト「過食性障害嘔吐」|セトリに秘められた意図とは

最後に演奏されたのは「過食性障害嘔吐」。

赤裸々なタイトルが示すとおり、この曲は満たされない心を埋めようとする衝動と、それを否定する自己嫌悪が交錯する苦しい状態――心と身体の分断が、むき出しのまま提示される。

凌央がふと漏らした、

「(このツアーのテーマが)セトリからもなんとなくわかるかも」

という一言。

今回のセットリストには「陰口」「噂」を皮切りに、「苺状自己顕示欲」「咀嚼」「毒キス」、そして「過食性障害嘔吐」と、“口”や“食”にまつわる楽曲が多数並んでいたように思える。

意図的な構成かは定かではないが、豹が語っていた“泥を喰う”“泥水を啜る”という言葉と重ね合わせると、どこか象徴的にも映る。

それは、傷を抱えながらも生き抜こうとする意志、そして“負け犬”としての誇りの形──そんなふうに読み取ることもできるだろう。


最後に|“泥”に塗れながら進む、ツアーの行方

こうして、「泥ツアー」の初日は静かに幕を下ろした。

蓮の花のように、濁った泥の中でもしなやかに、気高く咲こうとする──

そんなシェルミィと“負け犬”たちの姿が、確かにそこにあった。

敗北感、怒り、欺瞞、依存……

あらゆる感情を引き受け、泥にまみれることを厭わず、それでいてヴィジュアル系としての美意識を貫きながら、ステージの上で表現しきる。

その姿勢は、今を生きる“負け犬”たちの在り方そのものを、そっと肯定しているようだった。

この“泥”が、やがてどんな花を咲かせるのか。

その続きを、私たちは見届けに行く。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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