
2025年8月9日、シェルミィ「泥」ツアーの兵庫公演が開催されたのは、ライブハウス「太陽と虎」。

JR三宮駅から徒歩5分ほど。
高架下に位置するこの箱は、横幅が狭く奥行きのある構造だ。
小ぶりながらも不思議と閉塞感はない。
壁や柱には動物のぬいぐるみや観葉植物が飾られており、独自の温かみと賑やかさを醸していた。
この日は、8月10日の大阪・浴衣公演を前にした“関西二連戦”の初日。
1ヶ月以上ぶりの関西公演ということもあり、開場前の列には再会を喜び合う負け犬たちの笑い声が飛び交う。
中には浴衣の着付けについて語り合う声もあり、すでに関西2Daysが始まっていることを感じさせた。

開演〜登場
開場が暗転し、入場SE「全校集壊」のチャイムが鳴り響くと、ステージへ最初に姿を現したのは爻。
【見世物公演概要】
— シェルミィ ナレーター@犬飼 (@officialshellmy) August 10, 2025
2025年8月9日(土)神戸太陽と虎
シェルミィ単独見世物公演ツアー「泥」 pic.twitter.com/m1vavTpnzU
学生服風の衣装の下に覗くのは、マリリン・マンソンのTシャツ。
ひとりステージ上でドラムを叩き始めると、そのビートが重く全身に響いてくる。
続いて登場した凌央は、緩くウェーブをかけた髪をセンター分けにしている。
神戸、太陽と虎とコアラでした。
— シェルミィ 凌央🐨共犯者 凌央 (@koala_shellmy) August 9, 2025
人と接してなさすぎて自分が何者かも忘れかけてたわ pic.twitter.com/yhQtPsksqm
落ち着いた雰囲気が際立ち、穏やかな色気を醸していた。
次いで現れた友我は、襟足を青く染めている。
襟足がなぜか青になった。 pic.twitter.com/N6xT18IKGR
— シェルミィ Gt.友我 (@yuga_shellmy) August 9, 2025
その髪色と、人形のような端正な顔立ちが合わさり、まるで二次元の世界からそのまま抜け出してきたかのような非現実感を放っていた。
最後に登場したのは豹。
いきづれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー pic.twitter.com/XibVIGs0xR
— シェルミィ 豹 (@hyo_shellmy) August 9, 2025
シルエットだけでも目を奪われるほど、刺々しく逆立てた髪。
その頬には、涙の粒のような水滴風の装飾が煌めき、視線が自然と引き寄せられる。
1曲目「放課後の凶室」
【見世物公演概要】
— シェルミィ ナレーター@犬飼 (@officialshellmy) August 10, 2025
2025年8月9日(土)神戸太陽と虎
シェルミィ単独見世物公演ツアー「泥」 pic.twitter.com/m1vavTpnzU
幕開けは「放課後の凶室」。
「『暴力反対!』果てなき苦痛
『暴力反対!』飽くなき嘲笑
武器を持て、やられる側はもう終わりだ」
吐き捨てるような歌詞に乗せて、負け犬たちは拳を突き上げ、会場の空気が一気に熱を帯びる。
苦しみ、嘆き、劣等感――それらを真正面から燃やし尽くすような熱量で、神戸公演の口火が切られた。
2曲目「ファッションマイスリー」
鋭く畳みかけるようなビートの「ファッションマイスリー」。
ラストサビ前、豹がぽつりとこぼした言葉。
「ああ、この暑さで誰にも迷惑かけずに死にたいなんて思ってたけど、
やっぱり僕みたいな人間はーー生き恥を晒してやる」
“死”ではなく“生きること”を選び取る――
その覚悟の吐露が、鋭く胸を貫いた。
3曲目「陰口」
豹が観客に呼びかける。
「今から僕が『うるさい』と言ったら、続けて『うるさい』と叫んでください。いいですか!」
そして始まる、豹と負け犬たちのコールアンドレスポンス。
「うるさいうるさいうるさい!」
「うるさいうるさいうるさい!」
豹はニヤリと煽るように言う。
「全然うるさくないなあ?」
そのひと言に煽られ、フロアのボルテージはさらに上がる。
そのまま始まる3曲目「陰口」――。
抑え込まれてきた怒りを解放するようにヘドバンが巻き起こった。
4曲目「エキゾチックショートケーキ」
序盤から4曲連続で畳みかけるこのセットリストの中で、「エキゾチックショートケーキ」は異質な輝きを放っていた。
ケーキのような甘いメロディには、明るさと不穏さが同居する。
激しいヘドバンで、観客のテンションもすでに極限だ。
5曲目「少年蓮」
4曲目までで空間はすでに熱気に満ちていたが、豹の静かな語りがその空気を一変させる。
「渇きを潤す唄、聴いてください。『少年蓮』」
曲が進み、迎えたラストサビ。
「君が愛した全ての中で僕だけが
間違いだとしても良いよ、いつか笑えるね」
この一節を歌うはずの豹は、「僕が――」と口にして言葉を詰まらせる。
それは単なる歌詞の飛びかもしれない。
だが、この日の彼が抱えていた何かが、不意に溢れそうになったようにも思えた。
ギターボーカルとして、感情と旋律の両方を担いながら――
豹はこの“少年蓮”という象徴的な楽曲に、確かに“今の想い”を乗せていた。

MC→6曲目「遭難」
「少年蓮」を終え、MCへと移る。
「神戸太陽と虎ということで。僕らはなぜか、高架下のライブハウスに縁があるみたいです」
穏やかな笑いを交えながらも、語られる内容は徐々に深みを増していく。
「僕はいつも、自分の気持ちが落ちてるときに、それを歌にしてしまうことが多いんですけど──
今から歌う曲は、大切なものをなくしたときに書きました。聴いてください、『遭難』」
6曲目、シェルミィの中でも異彩を放つナンバー「遭難」。
「夏の29日目についた嘘」
という歌詞に込められた日付・7月29日は、豹にとって前身バンド時代の節目の日であり、慕っていた人を失った日でもある。
友我のギターが紡ぐ旋律が、まるで誰かに語りかける“声”のようにも感じられた。
7曲目「絶望産まれのセルロイド」
7曲目は「絶望産まれのセルロイド」。
「みぎからひだり、まえからうしろ
うえからしたまで落ちました」
豹は虚空をなぞるように指先をゆっくりと動かす。
感情を失い壊れていく中、
「助けて」
と縋る本能が、より色濃く描かれる。
8曲目「今日も後悔の血が垂れる」
続く8曲目は「今日も後悔の血が垂れる」。
頭を打ちつけるように、折りたたみを繰り返す。
自責と後悔に押し潰されるようなリズムが、フロア全体を覆い尽くした。
9曲目「自分を殺している」
9曲目は「自分を殺している」。
メロディアスで切ない曲調は、先の2曲で叩きつけられた暴力性を一度鎮めるように響きわたる。
静かに聴き入る者、拳を掲げる者、揺れる身体。
観客の反応はそれぞれに異なり、それをすべて見渡した豹が静かに頷いた瞬間、この曲が抱える“葛藤”が浮かび上がったかのようだった。
10曲目「ぐさり。」
先ほどまでのメロディアスな空気を切り裂くように、鋭いイントロが走り出す「ぐさり。」。
フロアではモッシュが発生し、サビではジャンプからの激しいヘドバン。
曲名の通り、鋭い刃物で突き刺されるような時間だった。
MC
ここで豹が唐突に問いかける。
「みんなシェルミィのこと好きですか?」
フロアからは「好き!」「大好き!」という声が次々と返る。
豹は一瞬言葉に詰まり、
「はは、なんか泣きそう」
と笑いで誤魔化すように応じた。
その後、バンドとしての誇りと覚悟を語る。
「9年やってきた中でも、このツアーは本当に熱いものにする。
もっと伸ばしていきたいし、俺らのことを誇りに思ってほしい」
前向きな言葉に、負け犬たちもうなずき、視線をステージに注ぎ続ける。
さらに豹は自身についても語る。
「僕は本当にどうしようもない人間で――だからこそ、バンドやっててよかった。
こうやって会いにきてくれるみんなのおかげで、自信を持ててる。
もっと、自分の好きな自分でいたい」
熱さの裏に隠れた劣等感や脆さを、包み隠さず言葉にする。
そのギャップが、彼らのステージをより“人間的”なものにしていた。
11曲目「劣等生狂想曲」
MCを受けて放たれたのは「劣等生狂想曲」。
爻のドラムが暴力的な勢いで会場を引っ張り、荒々しいサウンドがフロアを飲み込む。
タオルが舞い、観客とステージが一体となって自己否定を笑い飛ばす。
先ほど豹が語った“劣等感”は、音楽へと転化されていた。
12曲目「ラブレットピアス」
12曲目は「ラブレットピアス」。
イントロや間奏でフロアを彩るのは、左右の手首を打ち付ける振り付け。
まるでピアスを開ける衝動や痛みを具現化したようだ。
13曲目「インスティンクト_リクエスト」
13曲目「インスティンクト_リクエスト」では、友我のギターが歌うように響く。
リズムに合わせてフロア中がジャンプ。
曲名の通り、本能的な衝動をそのまま解放する。
14曲目「舌禍」
本編最後に選ばれたのは「舌禍」。
前回ツアーでの定番曲ながら、今回の「泥」ツアーでは珍しい選曲だった。
快楽主義的でありながらどこか退廃的なムードも漂わせるこの曲で、どこか余熱を残しながら、本編は幕を閉じた。
アンコールMC
アンコールでは、メンバー全員がツアーグッズTシャツ姿で再登場。
「俺が白Tで、がーゆが黒T着てる!いつの間に入れ替わった?」
豹が笑いながら問いかけると、友我が
「白T、実はツアー序盤でなくした(笑)」
と暴露し、フロアから笑いが起こる。
「Tシャツ在庫、今日から再入荷しました」
凌央が報告すると、待ち望んでいた負け犬たちから拍手が上がった。
だが豹が
「欲しかった人ー?」
と問いかけると、手を挙げたのはわずか二人。
「お前ら二人のために作ったからな!」
オチをつけ、笑いと拍手が広がった。

アンコール1曲目「心理的瑕疵少女」
リクエストにて選ばれたのは「心理的瑕疵少女」。
定番の人気曲であり、イントロからすでに会場の熱が一気に再燃する。
「私は負け犬事故物件!」
というコールアンドレスポンスが響くたびに、観客の声がステージに食らいつくように突き刺さった。
サビでは揃ったチョップ、そして最後はヘドバンの渦で再びボルテージが上がる。
アンコール2曲目「大人になったら死にたい」
2曲目は「大人になったら死にたい」。
豹が観客に向かって叫ぶ。
「死にたくなくても、“死にたい”って叫んでください!」
負け犬たちの「死にたい!」というシャウトが次々に重なり、会場全体を覆う。
明るいテンポに乗せて放たれるその言葉で、ライブ空間にしか生まれない一体感が完成していた。
ラスト「哀しい日はいつも雨」
「心で聴いてください。心で歌います」
豹が静かに言葉を添え、最後に披露されたのは「哀しい日はいつも雨」。
バラードの旋律に合わせて、汗と熱気に包まれた空間はひとときの静寂を取り戻していく。
歌が終わると豹はマイクを置き、黙ってステージをあとにする。
残されたメンバーは演奏を続け、音だけがフロアを包み込む。
そして、ゆっくりと幕が降り、拍手に包まれながら神戸公演は終演を迎えた。
最後に|“関西二連戦”の口火を切った夜
神戸・太陽と虎での公演は、ただの地方公演ではなかった。
狭いハコに詰め込まれた、観客と音のぶつかり合い。
鬱屈や劣等感すらエネルギーへと変わっていく過程を、目の前で可視化してみせた。
そして、そこにあったのは“強さ”と“弱さ”を交互に曝け出すシェルミィそのものだった。
攻撃的に突き刺さるシャウトも、ふと零れる脆さも、どちらも偽りではない。
むしろその落差が、バンド全体をより人間的で切実な存在として際立たせていた。
8月10日の大阪・浴衣公演へと、この熱が連鎖していく。
シェルミィが10周年に向けて走り続ける今、その熱量を体感できる機会を見逃してはいけない。
シェルミィ
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