シェルミィ「泥」ツアー 堺東Goith公演 ライブレポート

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2025年6月28日、大阪・堺東。

ジリジリと照りつける日差しのなか、堺東駅からほど近い商店街の一角にあるライブハウス・堺東Goithに、“負け犬”たちが続々と集まってきた。

この日は、シェルミィ「泥」ツアーの大阪2Days初日。

暑さも湿度も押し寄せる中、フロアにはツアーグッズのTシャツに身を包んだ観客の姿も見られ、開場前からすでに高揚感が漂っていた。

目次

開演SE「全校集壊」

開場が暗転するとSE「全校集壊」が流れ出し、一人ずつ登場するメンバーたち。

爻は、鋲が打たれたサングラスの奥に青く光る瞳を宿し、静かに前を見据える。

凌央は眼鏡にやや控えめなヘアスタイルで、まるで教室の隅で読書をしている文学少年のような佇まい。

友我は黒い網トップスをジャケットの下に忍ばせ、ストレートの髪をすっきり整えている。

そして豹は、目の周りを赤みのあるシャドウで囲んだメイク。

淡い色の瞳を湛えて、まるでゲームの中から飛び出したような存在感を放っていた。


1曲目「放課後の凶室」

1曲目に演奏されたのは「放課後の凶室」。

このツアーでは、イントロSE「全校集壊」からこの曲へとつながる構成が定番化しているため、“来るぞ”と予感できる幕開けだったはずだ。

だが、それでもなおチャイムの音が鳴り響いた次の瞬間に起こる爆発的なヘドバンの嵐には、毎回胸が高鳴る。

重たく唸る友我のギターと、爻のドラムの一撃で一気にフロアのスイッチが入った。


2曲目「ひきこもり人生」→3曲目「スウィートバッドエンド」

2曲目「ひきこもり人生」では、メンバーコールを交えながら、観客のボルテージを一気に引き上げる。

続く3曲目「スウィートバッドエンド」は、軽快なアップテンポで始まりながらも、次第に切なさが滲み出してくる一曲。

特に終盤の豹のボーカルソロパートでは、思わず見入ってしまうような、力強くも切ない叫びが響き渡る。


4曲目「自分を殺している」

4曲目に披露されたのは、「自分を殺している」。

“泥”ツアーの核となる新曲のうちの一つであり、そのタイトルが示す通り、自己否定と葛藤を真正面から描いた楽曲だ。

この日は、初披露時と比べて明らかに完成度が増していた。

リズムの精度が高まり、曲全体に通底する“鼓動”のような重みがより明確に伝わってくる。

MCで豹はこう語る。

「さっきの“じぶころ”──『自分を殺している』って曲、ここ拳したい!とか思ってる人も居ると思う。したかったら、してくれてもいいからね」

感情を抑えて聴くもよし、拳を突き上げるもよし──

それぞれの心のままに受け止めてくれればいい、と優しく投げかける。

それを受けて、爻が笑いながら続ける。

「LINEで“じぶころ”って送られてきた時、ちょっと戸惑うよ!笑」

フロアも「じぶころ?」と少しざわめきつつ、安堵を含んだ笑みが溢れた。


5曲目「少年蓮」→6曲目「ヒステリック姫カット」

5曲目「少年蓮」。

爽やかで比較的シンプルな作りの曲調の中にも、時折イタズラっぽく笑うかのような友我のギターリフが見え隠れし、シェルミィらしさを添える。

そこから畳みかけるように、6曲目「ヒステリック姫カット」へ。

Bメロでは、観客たちが手を繋ぎながら左右にステップを踏み、会場に一体感と笑顔が広がっていく。

だが、その甘さは長く続かない。

“ヒステリック”と冠するように、突き放すような毒気が間髪入れずに戻ってくる。

すべてが混ざり合って咲き乱れるこの2曲は、ツアー中盤にふさわしいカオスだった。



7曲目「如月駅」→8曲目「黒猫」→9曲目「狡い人」

電車の発車音が響き、7曲目「如月駅」へ。

この楽曲には、どこか懐かしく、それでいて二度と戻れない場所を思い出すような切なさが漂っている。

「迷子の様な不安感、灯りのない駅で
すれ違いの痕跡を思い返す」

“駅”という、別れや出発を象徴する場所で立ちすくみ、押し寄せる後悔や喪失感が胸を締め付ける。

続く8曲目「黒猫」は、ライブでの演奏頻度は決して高くないレアな1曲。

タンゴ調のリズムにのせて、不吉さと艶っぽさを併せ持つ音像が広がる。

「甘える事も出来ず青い空の下を飛び出した

すれ違う理由にもそろそろ気付いた頃なのです。」

ここでは、すれ違いが“もうすでに手遅れであること”を、当事者である自分も理解し始めている。

如月駅の“迷子”がまだ見つけてもらうことを期待しているとすれば、黒猫は「見つかることすら望まない者」か。

そんな沈黙と切なさを引き継ぎながら、9曲目は凌央の妖艶なベースに始まる「狡い人」。

再びゆるやかなリズムが戻り、攻撃性のある感情の浮上へと移ろっていく。

MC|グッズ情報、そして後半戦へ

9曲目を終えたところで、MCパートへ。

この日は、新グッズとして扇子とミラーが解禁された初日でもあった。

「本日から扇子とミラー出ました!」「大阪ツーデイズ、楽しんでいってください」とメンバーたちは笑顔で呼びかける。

そのあとのトーンが少し変わり、豹は観客へ語りかける。

「ネット上に溢れてる言葉って、その見た目以上に強い力を持ってる。ここにいる人の中にも、そういう心無い言葉で傷ついてる人いるかもしれませんが……言ってる奴に“お前が死ね”って思ってるくらいでいいし、それぐらいしたって天国に行けると俺は思う」


正義では解決できない心の闇の存在を受け入れる、そのまっすぐな言葉を、負け犬たちは静かに噛み締めた。


10曲目「陰口」→11曲目「噂」→12曲目「ハッピーオーバードーズ」

豹のMCを引き継ぐように、10曲目「陰口」が始まる。

爻の激しいドラムが冒頭から空気を引き裂き、豹のシャウトが一気に場を飲み込む。

「うるさいうるさいうるさい!」

というコールアンドレスポンスに、負け犬たちは拳を突き上げて全力で応える。

豹は煽るように「全然うるさくないけど?」と言い放ち、その挑発に応えるように、会場の熱はさらに加速していく。

続く11曲目「噂」のBメロではフロアのあちこちで回転ヘドバンが起こり、人から人へ伝わっていく噂の姿が視覚的に再現されるようだ。

そして12曲目「ハッピーオーバードーズ」。

イントロの拳ヘドバンで、フロアのテンションは一気に爆発する。

いよいよライブも佳境に差し掛かり、頭を振る音と熱気の渦で、感情のぶつけ合いが極まる瞬間だった。


13曲目「非ノーマル」→14曲目「過食性障害嘔吐」

13曲目「非ノーマル」では、観客は扇子を手にリズムを刻み、フロアが色と音で鮮やかに染まっていく。

2番では曲調が一時的に変化し、まるでダンスチューンのような軽快なビートが場を躍らせる。

しかし、それも束の間。

リズムは再び鋭利に引き戻され、観客を振り回す。

この構成自体が、まさに「非ノーマル」という名のとおりだ。

「僕は普通の社会が嫌いです」

そんな叫びを、そのまま身体で叩きつけるような一曲だ。

そして本編ラスト、14曲目に披露されたのは「過食性障害嘔吐」。

サビでは観客全員が手を振りながらジャンプし、感情と熱気が爆発する。

それはまるで、飲み込んでしまった痛みや毒を、いまこの場で吐き出さなければならないと叫んでいるかのようだった。

アンコール|カバンを投げ、制服を脱ぎ捨てる

アンコール1曲目は、恒例の選択型追加演目。

この日は、リクエストによって「フラッシュバック炉利ポップ」が選ばれた。

本来であれば、メンバーたちがステージから飴を客席に投げるパフォーマンスが行われるのだが──

豹「飴ないねんけど!」

思いがけない事態に観客がざわつく中、豹は次の瞬間、

「じゃあカバンでキャッチボールしよか!」

と叫び、飴の入っているはずだった学生カバンをそのまま客席に放り投げた。

メンバーと観客の間で始まる、前代未聞の“鞄キャッチボール”。

想定外のアドリブが、むしろライブの熱を引き上げた。

続く2曲目は、「インスティンクト_リクエスト」。

曲が始まる前、豹はマイクを握り、観客を見渡して恒例のひと言。

豹「そんな邪魔な制服なんて脱いじまえ!」


「フラッシュバック炉利ポップ」で投げ合った学生カバン、そしてこの“制服”というモチーフが思わぬ形で接続し、不覚にも即興のストーリーが成立していた。

アンコールラスト、3曲目に演奏されたのは「高原くん」。

「高原くんが大嫌いです!」という憎しみの声が、エネルギーへと転化していく。

先ほどまでの盛り上がり、その熱の根源にあったのは、単なる楽しさや多幸感ではなかった。

怒り、嫉妬、恨み──心に溜まり続けていたドロドロとした感情たち。

そのすべてを、シェルミィはライブで燃料に変え、私たち“負け犬”と一緒にぶつけてくれた。

「高原くんが大嫌いです!」と叫び、楽しい時間の果てにあえて沈んでいく構成は、ただ明るく終わることを拒むようでいて、むしろ現実を共に睨み返す“同志”のような気迫すらあった。

最後に|豪快に踏み出した大阪のはじまり

アンコールの終盤、豹はマイクを握り、まっすぐに叫んだ。

「僕たちと傷だらけになって、ボロボロになって、共に生きていきましょう!」

その言葉には、言葉だけではすくい取れない痛みも、怒りも、恥も、全て引き受けたうえでの覚悟がにじんでいた。

シェルミィが表現する“泥”は、惨めさでも敗北でもない、共にあるための証なのかもしれない。

パワーと毒が渦を巻く街・大阪。

その初日にふさわしい、豪快で容赦ない踏み出しだった。

シェルミィ

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この記事を書いた人

関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

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