
多くのヴィジュアル系(V系)バンドには、ギタリストが2人いる。
ライブやミュージックビデオを見ていて、「なぜ2人も必要なのだろう?」「ギターソロを弾いている人ともう1人は、それぞれ何をしているのだろう?」と疑問に思ったことはないだろうか。
実は、V系のバンドにおける2人のギターは、ただメロディと伴奏を分けているだけではない。
ギターが2人いるからこそボーカルの歌声がより引き立ち、曲のストーリーがよりドラマチックに展開していくのだ。
この記事では、「2人のギターが何をしているのか」を整理した上で、ヴィジュアル系バンドの厳選5曲を通して、その役割を解説していく。
ヴィジュアル系の上手ギター・下手ギターの役割
ヴィジュアル系(V系)バンドのツインギターは、一般的に以下のような役割分担が多い。
上手ギター:「リードギター」としてメロディやギターソロを担当
下手ギター:「バッキングギター」として楽曲の土台を支える
ただし、楽曲や場面によって役割を柔軟に入れ替えるバンドも多い。
片方が主役、もう片方が伴奏という単純な関係ではないのが特徴だ。
二人のギターが左右から異なるフレーズを重ねることで、幻想的な空気感や激しい音圧、感情が押し寄せるドラマチックなサウンドが作られている。
最初に知っておきたいギター用語

まずは、ヴィジュアル系ギターで頻繁に使われる用語を整理しよう。
リードギター
楽曲の「主役」を担う役割。
ギターソロはもちろん、歌の合間に印象的なメロディを弾くことが多い。
ボーカルをサポートする「付け合わせのおかず」のようなフレーズ(オブリガート)を加えたりもする。
バッキングギター
楽曲の「土台」を作る伴奏の役割。
リズムを刻み、コード(和音)を鳴らすことで、曲に厚みと安定感を与える。
コードストローク
複数の弦をまとめて「ジャカジャカ」と一気に弾く奏法。
力強いリズム感や、曲の広がりを出す際に使われる。
アルペジオ
和音を一度に鳴らすのではなく、1音ずつバラバラに弾く奏法。
ヴィジュアル系では、イントロやバラードなどで幻想的、あるいは切ない雰囲気を作る際によく使われる。
オクターブ奏法
ある音とその1オクターブ上の音(高さは違うが同じ音階の音)を同時に鳴らす奏法。
音に厚みと華やかさが出るため、サビのリードフレーズなどで非常に多用される。
パワーコード
ドレミの「1番目の音(主役の音)」と「5番目の音」だけを組み合わせた、シンプルで力強い和音のこと。
歪んだ音との相性が抜群で、激しいリフやバッキングの核となる。
リフ(ツインリフ)
楽曲の顔となる、繰り返される印象的なフレーズのこと。
二本のギターが異なる、あるいは重なるフレーズを同時に弾くことを「ツインリフ」と呼ぶ。
ピッキングハーモニクス
ピックで弦を弾いた直後に親指の側面を軽く触れさせ、「キーン」という高い倍音を鳴らすテクニック。
攻撃的で派手なアクセントを加えることができる。
ブリッジミュート(パームミュート)
右手の手のひらをブリッジ(弦の根元)付近に軽く触れさせた状態で弾く奏法。
「ズクズク」という歯切れの良い重低音が得られ、メタルの要素が強いヴィジュアル系サウンドには欠かせない。
ヴィジュアル系ツインギターの定番アンサンブル3選
アンサンブルとは、複数の楽器やパートが組み合わさることで生まれる、全体の響きや演奏のまとまりのことを指す。
ここでは、ヴィジュアル系でよく使われるツインギターのアンサンブルを3つ紹介する。
【静】幻想的な空間を作る
リードがキラキラとした星空のような空間を作り、バッキングがそれを支える。
これにより、ボーカルの歌声を美しく響かせることができる。
【動】攻撃的な勢いを生む
二本のギターが異なる動きをしながらも、リズムを共有することで、一人では出せない圧倒的な音の壁(音圧)を作り出す。
【極】感情を爆発させる
リードが「第二のボーカル」として歌い上げるとき、バッキングは単に伴奏に徹するのではなく、その感情を後ろから力強く押し上げる役割を果たす。
ツインギターが映える!ヴィジュアル系楽曲5選
ここからは、実際のヴィジュアル系楽曲を通して、ツインギターがどのように役割分担し、楽曲の世界観や感情を作り上げているのかを見ていこう。
イントロのアルペジオ、サビ裏のメロディ、重厚なリフ、ギターソロ時の支え方など、それぞれのバンドごとの個性にも注目してほしい。
零[Hz]『勿忘草』
V系らしい「切なく胸に響くメロディ」と、現代的な鋭いサウンドが共存する楽曲。
イントロにおいて、上手ギターのRioがアルペジオを交えた繊細なワークで土台を敷き詰める。
そこへ下手ギターのLeoが切ないテーマを重ねることで、一瞬にして聴き手を物語へ引き込む。
特筆すべきはギターソロだ。
Leoのエモーショナルな旋律の裏で、Rioは力強いコードストロークを展開。
これにより、曲全体の盛り上がりが最高潮に彩られている。
ゼラ『Dystopia』
スタイリッシュな攻撃性を武器にするゼラは、二人のギタリストによる緻密なコンビネーションが光る。
イントロでは二本のギターがユニゾンリフ(同じフレーズ)を叩きつけ、バンドとしての圧倒的な一体感を示す。
しかし、歌唱パートに入ると役割は鮮明に分かれる。
A・Bメロの随所でKIRANによるエッジの効いた単音フレーズが輝く。
サビでは、ボーカルの裏で歌と対になるようなフレーズを弾き倒す。
これをミナギがパワフルなバッキングで支え切ることで、音の密度を極限まで高めている。
ヤミテラ『玉砕メーデー』
パンキッシュな衝動とヴィジュアル系の美学をミックスした、パワフルで骨太なアンサンブルである。
上手ギターのShuKaによる、ピッキングハーモニクスを交えた攻撃的なメインリフが象徴的。
不穏さと派手さを併せ持つフレーズを、下手ギターの蘭樹が揺るぎないバッキングで徹底して支え、楽曲のセンターラインを力強く保つ。
特に2番Aメロでの、ボーカルに絡みつくようなShuKaのリードフレーズ。
蘭樹が作る強固な土台があるからこそ、リードが自由自在に泳ぐことができるのだ。
XANVALA『災』
インディーズヴィジュアル系シーン随一の重厚さを誇り、ツインリフの構築美が際立つ。
イントロからアウトロに至るまで、宗馬が楽曲の核となるテーマメロディを弾く。
そこにYuhmaが激しいストロークを重ねる。
通常、バッキングは支えに徹することも多いが、Yuhmaのアプローチは「リフとしてのバッキング」。
宗馬のリードと合わさることで巨大な塊となって迫りくる。
「二本で一本の巨大な楽器」のような感覚が、XANVALAの世界観を一気に重厚なものにしている。
Z CLEAR『長月の華』
繊細さと疾走感を併せ持つZ CLEARは、パートごとの役割の切り替えが非常に見事だ。
1番のAメロでは、みやこの切れ味鋭いカッティングに対し、トミーがリズミカルなバッキングを重ねて軽快なノリを生み出す。
ところが2番のAメロでは、みやこがブリッジミュート(パームミュート)を多用。
そこにトミーのバッキングが加わることで、1番とは異なる表情を見せる。
さらにソロでは、トミーが奏でるメロディアスな旋律を、みやこの安定したバッキングがしっかりと支える。
状況に応じて柔軟に役割をスイッチする、お手本のようなアンサンブルだ。
まとめ
ヴィジュアル系における二人のギタリストは、いわば「役者」と、その役者を輝かせるための「舞台」の関係と言える。
今回紹介したバンドたちは、その伝統的な形式を使いこなしながら、より自由に、より新しく進化を続けている。
次にヴィジュアル系の曲を聴くときは、ぜひイヤホンから流れる「左の音」と「右の音」の対話に耳を澄ませてみてほしい。
そこには、言葉以上に雄弁に語り合う二人のギタリストの物語が隠されているはずだ。
この記事の監修者編集長
関西在住。大学では法哲学を専攻し、「ヴィジュアル系における自由と規律」をテーマに研究。音楽を通じた表現と社会的規範の関係性に関心を持ち、ヴィジュアル系という文化現象を美学・社会構造・言語の観点から読み解いてきた。現在はメディア運営者・ライターとして、執筆を通じてバンドの世界観を言語化し、ヴィジュアル系の魅力を広く伝える活動をしている。

